ブッシュの報復税制と日本の三位一体改革
フジサンケイビジネスアイ(日刊・経済新聞)
1/31/2005 寄稿論文

 

 ブッシュ政権の二期目が始まろうとしている。アメリカのテレビは相変わらずイラク情勢だが、再選されたことでイラク戦争に対する是非論は遠ざかった。代わって注目されているのが税制改革だ。それもブッシュの反撃――報復税制が話題を呼んでいる。
 ブッシュ大統領が選挙戦を通じて主張したのは減税による景気対策だ。全体的に減税に向かうことは間違いがないが、しかし地域によっては増税になる市民も出てくるかもしれない。その増税ターゲットこそ、ブッシュを選ばなかった巨大な選挙区、カリフォルニア州やニューヨーク州である。
 アメリカの地方自治システムでは立法や司法のさまざまな面において地方自治体の「強さ」が浮き彫りになる。連邦政府は決して州政府の上に座しているわけではない。州政府に対して唯一コントロールを持つのは憲法だけだ。憲法にさえ違反しなければどんな法律をつくろうと州政府の勝手だ。
 ここでのポイントは当然、財政である。各州政府は連邦政府同様独自の課税権を持ち、その歳入や債権などによって地方自治を実現している。カリフォルニアのように州の所得税(最高9.3%)をとる州もあれば、ネバダのようにとらない州もある。一見、極めて独立的な課税システムが働いていてアメリカの地方自治の強さを支えているように見えるはずだ。
 ところがそうも言い切れないのは、実は市民は州政府に対して所得税を払ったあと、連邦政府に対する所得税では(標準所得控除を選択しない場合)そのローカル税額が所得控除される仕組みになっている点である。今の連邦所得税はその控除から生ずる税収不足を埋めるように税率が設定されていることになり、これではネバダ州のように州の所得税のない地域住民にとってフェアではない。
 このようにアメリカの地方自治の「勝手」は連邦政府がクッションとして介在し、他州との優劣を緩衝させることで成立している面があったわけだ。この意味で、法的には完成形を見せているアメリカの地方自治だが、財政的には一部「間接スネかじり」があると言える。
 ブッシュ大統領の税制改正では、この連邦政府が認めていたローカル税の所得控除を廃止しようという動きがでている。そしてこの影響を受ける州税の大きな地区がまさにカリフォルニアであり、ニューヨークであるというので報復税制と揶揄されているのである。(この批判そのものは正確ではない。)
 これは、単に税制改革だけでなくアメリカの地方自治の姿に大きく影響を与えるはずである。地方は課税権の自由な裁量を行使するために、今後は厳密に応分な負担を強いられることになる。カリフォルニアやニューヨークの住民の間には、州税がまさに家計の重荷になるので州政府に対する減税要求が高まるし、あるいは他州に引っ越すインセンティブが強くなる。各州政府は、他州をよく見据えた税制改革を行わないと、比較されて確実に地域の魅力を落とすことになる。
 アメリカはいよいよ地方自治の総仕上げに入ったといえる。
 翻って、日本の三位一体議論は、地方自治すごろくの「初めの一歩の議論」である。この先には自主課税権の大幅な緩和が見込まれ、初めて地方は歳入確保に向けて真に知恵をしぼることを迫られる。しばらくはその地方自治体の新税(自主課税)も実額にして極めて低いものか、額が大きくなった際には国税に対する所得控除や税額控除が導入されることで(そのクッションのおかげで)他県と比べてハンディを負うことは少ないだろう。
 しかしアメリカの例を見れば、そのようなクッションをいつまでも敷いていられなくなるときが来るかも知れない。控除がなくなれば、各県民はその県のタックスデザインがまさに彼らの財布を直撃することを理解する。雇用機会だけでなく、地方税制の差異によって民族の移動が見られるようになる。地方自治の時代とは、ここまで厳しい競争原理の時代である。そこまでの覚悟が我々にできているだろうか?
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